第12回研究会 ローカル・ガバナンスと地域社会
第12回研究会 ローカル・ガバナンスと地域社会(シリーズ 政治と民俗学2)
日時:2011年12月11日(日)13:00~
場所:お茶の水女子大学 大学本館第7講義室(2階209号室)
表題:ローカル・ガバナンスと地域社会(シリーズ 政治と民俗学2)
発表者:
船戸修一(静岡文化芸術大学文化政策学部専任講師)
「都市における農業用水の維持管理の現状とそのローカル・ガバナンス形成への課題 ―東京都日野市の『豊田堀之内用水組合』の事例から―」
門田岳久(日本学術振興会特別研究員)・ 小西公大(東京外国語大学現代インド研究センター特定研究員)
「「寄合民主主義」とローカル・ガバナンス ―廃校舎再利用をめぐる住民参加と合意形成のゆくえ」
コメンテーター:
宮崎文彦(千葉大学国際教育センター特任研究員)
司会:
室井康成(東京大学東洋文化研究所特任研究員)
趣旨
近年地方分権化や新たな公共性の創出にともなって,従来集権的な行政組織内部で行われてきた地域社会に関わる政策の策定を,地域住民自らが主体となりその過程に参入しようとする新しい政治現象が生じつつある。この動きは一般にローカル・ガバナンスと呼ばれるが,この概念は統治組織(ガバメント)から統治過程(ガバナンス)へと着目点を移行させ,住民と行政,それに住民と住民の間の相互行為や議論の過程を重視する概念である。ローカル・ガバナンスの進展はとりわけ地域福祉や医療,観光開発(街作り),農業開発といった住民生活に直接つながる分野で目立っており,その点をもって,ローカル・ガバナンスの問題が単に行政や政治の変化を示すだけでなく,人々の生き方や生活を考える学問としての民俗学の課題でもあると言えるのである。
もちろん民俗学はこれまで,あえてこのような概念を使わずとも村落社会における自治としての「政策」策定過程の研究を,例えば水利慣行の研究,宮座や寄り合いにおける意思決定の過程の研究として蓄積を果たしてきた。ただ村落政治の研究がローカル・ガバナンス研究と異なるのは,前者があくまで共同体の秩序を再生産する慣習的政治として捉えられていたのに対し,後者は住民と行政が対等な立場で向きあう中から,開かれた共同体の再組織化を構想する点で,未来の社会像に大きな差異を見ることができる点である。
問題は,多くのローカル・ガバナンス論者が想定するほど現実の地域社会は「開かれた」未来へと前進しうるほど円滑でも,またプラクティカルに問題解決が行われるわけでもなく,地域内部の文化・自然資源を活用して地域政治が図られる以上,地域内部の既存の社会関係や慣習にガバナンスのあり方が左右されることが多いということである。「政治と民俗学」を主題とした本年度の本学会研究大会シンポジウム(5月)では,草創期の民俗学が民衆を政治的主体として立ち上がらせる政策科学としての性格を有していたことが明らかにされたが,今回の研究会では政策的理念や新たな社会像の基礎となるような,「政治」が人々の生活の局面で稼働するもっともミクロな力学について,精緻なフィールドワークの成果から紐解いていく。発表者には,農村社会学・地域社会学の立場から農本主義や有機農業運動といった近現代社会における人と「農」との新たな関係を明らかにしてきた船戸修一氏と,廃校舎の再利用を契機に街作りを行う住民や行政の活動に民俗学・人類学・歴史学の共同研究を通じて実践的に関わってきた門田岳久・小西公大両氏,そしてコメンテーターには政治哲学を専門とする宮崎文彦氏を迎え,地域社会からガバナンスをまなざすことの意義,そして民俗学がローカル・ガバナンスの現場や新たな社会像の創出にどう関わっていけるのかを議論したい。