第22回研究会 社会的排除に民俗学はいかに向き合えるのか
第22回研究会 社会的排除に民俗学はいかに向き合えるのか――排除の日常・文化を記述する術を探って
日 時: 2014年3月29日(土)13:00~
会 場:成城大学3号館2階 321教室
発表者:
今野大輔(成城大学民俗学研究所)
飯倉義之(國學院大學)
コメンテーター:
政岡伸洋(東北学院大学)
柏木亨介(蔚山大学校)
コーディネーター:
今野大輔(成城大学民俗学研究所)・及川祥平(成城大学民俗学研究所)
趣旨:
民俗学は経世済民の学であり、現代的問題の解決を目指す学問である。そのような自己規定のもと、社会への成果の還元、あるいは研究課題の現代性ということを、民俗学者は常に意識してきた。しかし、にも関わらず、現代日本に累積する社会的課題を見渡すかぎり、民俗学には同時代の問題状況に対して発言し得るだけの蓄積がない場合があまりにも多い。「社会的排除」もそのような問題の一つである。国際社会においては、あらゆる人権の侵害状況の克服が課題視されている。現代日本社会においても無数の排除的状況が多様性・複雑性を増しながら生産され続け、問題化していることは周知の通りである。
もっとも、人々の生活に寄り添ってきた民俗学が、この種の問題に無関心であったわけではない。過去からの拘束性や文化的問題に起因して現在に顕在化する排除や差別に対し、民俗学のデータ蓄積は、その問題性や無根拠性を実証的に明らかにし得る点できわめて重要な意義をもつ。一方で、当該領域に対する民俗学のスタンスの消極性が問題視されていることも事実である。『日本民俗学』252号において企画された特集「差別と民俗」は、学会としては初の差別・排除の主題化であり、この方面の議論の活発化が期待された。しかしながら、この特集号以降、6年もの月日が経過しようとしているが、民俗学における当該領域の研究が目覚ましく前進したとは言い難い。民俗学が社会的排除と向き合う上では、これまでの成果をふまえた上で今後の議論の方向性をさぐる場をもうける必要があるのではないだろうか。
有り得る方向性の一つとして、本研究会では、排除を導く様々な差別的偏見(事実誤認に基づく/を導くフォークロア)に照準する可能性を検討する。それがどれほど無根拠であっても、人々をカテゴリー化し、ステレオタイプにあてはめ、そこに特殊性を幻視するような言説が、コミュニケーションの中でリアリティを獲得し、人々の意識を拘束してしまうことがある。この排除的な日常生活の局面を民俗学的に見据える作業、すなわち、「人はどのように、どのような排除・差別を行なってしまうのか」ということを記述的に明らかにする道筋は、幻想が生きながらえてしまう現象ないし状況を相対化することに寄与し得るのではないだろうか。
以上の趣旨に基づく本研究会では、登壇者として民俗学的見地から特にハンセン病差別の文化的要因を主題として議論を展開してきた今野大輔氏を招き、民俗学における差別研究の状況を批判的に整理していただき、自身の研究構想とともに差別研究に残されている課題を鮮明化していただく。また、民俗学の中でも〈口承〉研究ないし「世間話(日常の語り)研究」から飯倉義之氏を迎え、特に日常的コミュニケーションの中に顕在化する差別的眼差しや排除の論理を民俗学が記述することの可能性を検討していただく。
以上により、社会的排除という今日的で大きな課題に、民俗学はどのように向き合っていくことができるのかを探りたい。
■主催:現代民俗学会