第24回研究会 何ができて、何ができないのか
第24回研究会 何ができて、何ができないのか―『無形民俗文化財が被災するということ』からつかみとる課題
日 時: 2014年7月26日(土)13:00~
会 場:東京大学東洋文化研究所3階 大会議室
発表者:
高倉浩樹(東北大学教授)
コメンテーター:
政岡伸洋(東北学院大学教授)
木村周平(筑波大学助教)
コーディネーター:
菅豊(東京大学教授)・塚原伸治(東京大学特任研究員)
趣旨:
災害や戦争といったドラスティックな出来事によって、人間は少なからず変えられる。それはいかにも冷静ぶっている研究者とて、同じである。アメリカの民俗学者・カール・リンダール(Carl Lindahl)も、そのような大きな出来事によって変えられた研究者の一人である。
中世民俗学、昔話、伝説研究などの口頭伝統研究の権威であった彼は、2005年にメキシコ湾を襲来した二つの巨大ハリケーン(カトリーナとリタ)災害を目の当たりにすることによって、研究者としての姿勢、研究の方向性、手法を大きく転回した。この災害で、被災地ニューオーリンズでは大量の被災者が発生し、西に数百キロ離れたヒューストンまでも押し寄せた。彼はそこで、被災者に物資を配るという直接的な支援活動に携わるなかで、多くの体験談を聞かされる。それがきっかけとなって彼は、被災者が「災害の物語」を自ら「語り」「聞き」「書く」という手法を学びながら自分自身の「物語」を管理することによって、一般社会に報道メディアなどを通じて流された偏見、差別に満ちた語りに対し、自身の声で対抗するという挑戦・「ヒューストンでカトリーナとリタから生き延びる(Surviving Katrina and Rita in Houston、略称:SKRH)」プロジェクトを立ち上げた。その活動は災害前には、リンダール自身にも想像だにできない、研究者の活動の新しい転回であった。
日本でも、東日本大震災後、「民俗」を取り巻いてさまざまな活動が執り行われてきた。「古臭い」地元の民話にしか興味をもっていなかった民話サークルの人びとが、この災害を契機に「新しい」災害の物語を集め、記録に遺す活動を始めた。さらに、文化庁や自治体、研究者が、被災地での聞き取りやそのアーカイブ作り、民具等の文化財レスキュー、被災地文化を復活させる資金的・組織的支援などを開始した。それらもまた、災害前には想像すらできなかった「民俗」を取り巻く新しい転回であった。
本研究会では、そのような活動の一つである「東日本大震災に伴う被災した民俗文化財調査」プロジェクトの展開過程を描いた『無形民俗文化財が被災するということ―東日本大震災と宮城県沿岸部地域社会の民俗誌―』(高倉浩樹・滝澤克彦編2014、新泉社)を、震災のエスノグラフィーとして読み込むなかで、民俗学や文化人類学研究者に「何ができて、何ができないのか」という課題について検討する。それは、単なる書誌合評ではなく、震災後の研究者の生身の活動例をもとに、その活動の開始から「成果」の生成までの過程を含めて議論することによって、今後、社会実践に向き合う研究者が顧みるべき共有知を創造することを目的としている。(文責:菅豊)。
■主催/共催:現代民俗学会、「新しい野の学問」研究会(科研「現代市民社会における『公共民俗学』の応用に関する研究―『新しい野の学問』の構築―」(代表者:菅豊)/東京大学東洋文化研究所班研究「東アジアにおける『民俗学』の方法的課題」