第36回研究会 人から描く民俗誌
第36回研究会 人から描く民俗誌―あらたなフィールドワーク技法にむけて―
日 時: 2017年1月8日(日)13:00~17:00
会 場:福岡市博物館 講座室1
プログラム:
司会・趣旨説明:内藤順子(早稲田大学) 「経緯・趣旨」
発題:川田牧人(成城大学) 「福の民手法の教育実践」
発表1:三浦耕吉郎(関西学院大学) 「『福の民』から『ひとと人々』へ―福岡市史の「私の10年」」
発表2:松村利規(福岡市博物館) 「『本日の名言』から『生きかたの向き』を考える」
コメント1:門田岳久(立教大学)
コメント2:谷智子(福岡市博物館)
コーディネーター:
内藤順子(早稲田大学理工学部)・川田牧人(成城大学文芸学部)
趣旨:
フィールドに身をおくと、たとえばひとの声色やちょっとした機微から、字面や画像や映像からはわからないことが見えてくる。ひとは日常的に世間とかかわり、家族やまちや社会を形づくるわけだが、他人や世間との絡みかたの流儀や社交術や阿吽の呼吸にいたるまで、意識しているにしろ無意識にしろ、技の使い手でもある。民俗とはそうした「暮らしのなかの技」(『福の民』2009)の集積ともいえるだろう。
従来の民俗誌がおのずと土地柄(風俗習慣人情)を描いてきた傾向をふまえ、本シンポジウムでは、人柄からの民俗の描きかたに焦点をあて、あらたなフィールドワークの可能性を検討したい。人柄とはたんなるそのひととなりというだけではなく、そのひとや人々が繰り出す技や工夫や暮らしぶりを含む広がりを持ったひとの醸すなにかである。
そこで、この手法をもちいて民俗を描き出された三浦耕吉郎氏と松村利規氏に、社交や民俗を描くのにはどのような手続きが必要なのか、その手の内を語ってもらう。そして、ひとに焦点化したフィールドワークについての別の著作『〈人〉に向き合う民俗学』の編著者である門田氏と、『福岡市史』制作プロセスで編集者として鋭く斬り込みを入れつつそれを支えてこられた谷氏の二方にコメントを担当していただく。
この人柄から民俗を描く技法――名付けて〈「福の民」手法〉あるいは〈ひと焦点化手法〉――のあらためての方法化は、じつはすでに本企画者ふたりの教育現場において実践を試みている。ひと焦点化の有効性の実例として、そのプロセスと成果の現状を川田氏に話してもらうことから始めたい。
三浦耕吉郎(関西学院大学)
「『福の民』から『ひとと人々』へ―福岡市史の「私の10年」」
初年度に飛び込んだ太鼓屋さんでニベもなく取材を断られたり、魚の行商人を追って行った志賀島の潮くさい民宿で悶々とした日々を振り返りつつ、『福の民』を執筆せずにひたすらそのメイキングの過程によりそい続けた前半の5年間の経験が、私にとっていかに『ひとと人々』の執筆の糧になったのかという観点から、「人々の暮らしのなかの技」にかんする考察を試みたい。
松村利規(福岡市博物館)
「『本日の名言』から『生きかたの向き』を考える」
私たちの周辺にいるちょっと気になる人たちとの、取りとめもない世間話の場から『福の民』は生まれた。そこでは何かの拍子に、人柄、経験、魅力その他、さまざまな要素が凝縮された「名言」が発せられることがある。それらをうまく捉まえることで『福の民』の短い記述にしっかりとした芯を与える試みについて、振り返ってみたい。
【文献】
『新修福岡市史特別編 福の民』福岡市史編纂室、2010年
『新修福岡市史民俗編 ひとと人びと』福岡市史編纂室、2015年
『<人>に向き合う民俗学』門田岳久・室井康成編著、森話社、2014年
■主催/共催:現代民俗学会/福岡市博物館/「高密度デジタルモバイルを用いた〈ひと〉焦点化フィールドワーク手法の開拓」(平成27年度~28年度科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究)、研究代表者=内藤順子)