第37回研究会 今だからこそ議論する「被災地で民俗学が考えるべきこと」

第37回研究会 今だからこそ議論する「被災地で民俗学が考えるべきこと」


日 時: 2017年3月4日(土)13:30~
会 場:東北学院大学土樋キャンパス8号館841教室

プログラム:
13:30~13:40 趣旨説明:政岡伸洋(東北学院大学)
13:40~14:20 報告1:小谷竜介(東北歴史博物館)
    「宮城県雄勝地域の神楽と地域社会」
14:20~15:00 報告2:加藤幸治(東北学院大学)
    「震災6年目の牡鹿半島と「復興キュレーション」」
15:00~15:15 休憩
15:15~15:55 報告3:政岡伸洋(東北学院大学)
    「被災地の動きから何が見えてきたのか―宮城県本吉郡南三陸町戸倉波伝谷の事例から―」
15:55~16:15 コメント:金子祥之(日本学術振興会特別研究員PD(立教大学))
16:15~16:30 休憩・会場設営
16:30~17:30 ディスカッション
司会:政岡伸洋
コーディネーター:政岡伸洋

趣旨:

 2011年3月11日に発生した東日本大震災では、太平洋沿岸に津波が襲い、死者・行方不明者18,455人(2016年3月10日現在)、そこに福島第一原発事故も発生し、暮らしの基盤が完全に破壊されるなど、甚大な被害がもたらされた。特に、津波や原発事故は、その映像がリアルタイムで流されたこともあり、世界に衝撃を与えた。
 また、今回の震災では、民俗というものが注目を集めた点も指摘できる。特に、がれきも片付けられていない状況の中で、次々と祭りや民俗芸能が復活し、「民俗の力」「コミュニティの強い結びつきが震災を乗り越えた」として、震災前との連続性を強調する形で、マスコミ等でも数多く取り上げられた。
 ところで、民俗学およびその周辺諸科学は、このような東日本大震災をめぐるさまざまな現象に対し、いかに向き合ったのか。まず最初にあげられるのが、被害の状況をとりあえずインタビューし、記録に残そうとするものである。震災直後にみられたが、その多くはこれまでの災害などを対象とした研究を踏まえ、何か目的を持って調査したというより、何でもよいから目の前に起こるものを記録していくという傾向が顕著であった。
 また、津波によって近代的な建造物が次々と破壊され、原子力発電所でも事故が発生するなど、自然の驚異を克服し便利で快適な暮らしを確立したと信じていた現代の暮らしが、そうではなかったことに衝撃を受け、人間の力の限界などを主張する研究も多い。このような主張は、阪神・淡路大震災においてもみられたが、注意すべき点として、特定の地域を対象に、暮らしを総体的にとらえ、詳細な事例分析に基づくような、一般的な民俗学の方法によって導かれたものではなく、印象論的な面が強く、注意が必要である。
 一方、今回の震災では、その直後から、学問が被災地に対してどのような貢献ができるのかが問われたが、特に民俗学では文化財レスキューが注目を集めた。がれきの中から文化財を救出して行く姿はマスコミ等でも数多く取り上げられ、民俗学が被災地にいかに向き合うべきかという点に対して、その主たる方法として定着したように思われる。たしかに、非常に意味ある活動だといえるが、ここで注意すべきは、これらはあくまで地域を表象するような文化財を軸とするものであって、これまでの民俗学が重視してきた地域の暮らし全般を対象としたものではない点は押さえておく必要がある。
 これに対し、被災地に起こるさまざまな現象を、フィールドワークにもとづいて検討するような研究があまり行われていなかったのかというと、そうではない。民俗学の場合はそれほどではなかったが、その周辺諸科学である社会学や文化人類学では多くの研究者が被災地で調査を行っている。その際の特徴として、「脆弱性」や「回復力」といった、従来の災害研究の成果を踏まえ分析することが多い。つまり、災害を軸に調査対象を見ようとする傾向が顕著であった点が指摘できる。これに対し、これまでの民俗学が得意としてきた暮らしを軸として、これらの動きを考えるような研究は、十分行われてきたとは言えないのが現状である。
 以上の研究成果は、それぞれの立場において非常に意味があるが、民俗学の対応として、本当にこれだけでよいのかと考える研究者は、企画者だけではないようにも思われる。また、このような議論を行うことで、単に災害への向き合い方のみならず、民俗学そのものの視点や方法の特徴についても考える場ともなりうる。
 そこで、東日本大震災から5年以上を経た今日、『今だからこそ議論する「被災地で民俗学が考えるべきこと」』と題し、上記のようなこれまでの研究成果の意義と課題を踏まえつつ、日常というものを軸に人々の暮らしの意味を考えようとしてきた民俗学が、被災地に対しいかに向き合うべきかというテーマについて、具体的事例に基づく研究成果報告をもとに、ここに参加する皆さんとともに改めて議論できればと考えている。

主催・共催:現代民俗学会/科学研究費補助金基盤研究C「被災地における暮らしの再構築とその民俗的背景に関する調査研究」(研究代表者:政岡伸洋)/科学研究費補助金基盤研究C「ポスト文化財レスキュー期の博物館空白を埋める移動博物館の実践研究」(研究代表者:加藤幸治)/東北学院大学アジア流域文化研究所