第48回研究会「アートの民俗学的転回、民俗学のアート論的転回」
第48回研究会「アートの民俗学的転回、民俗学のアート論的転回」
日 時:2019年12月15日(日)13:00~
会 場:東京大学東洋文化研究所大会議室
コーディネーター:菅豊(東京大学大学院情報学環・学際情報学府)
司会:塚原伸治(茨城大学人文社会科学部)
発表者:
福住廉(美術評論家、東京芸術大学非常勤講師)
「アートの民俗学的転回」
菅豊(東京大学)
「民俗学のアート論的転回」
コメンテーター:加藤幸治(武蔵野美術大学教養文化・学芸員課程研究室)
趣旨:
1920年代を中心とする20世紀初頭、民俗的な芸術は重要な課題とされ、注目され、活発に議論されていた。日本の民俗学のアート論を考える上において、この時代は一大画期であり、そこでは制度化された高踏な芸術とは異なって、民俗的な世界に生かされる芸術へのまなざしが立ち現れた。たとえば1910年代には「農民美術運動」、1920年代には「民俗藝術」「民藝」そして「考現学」といった、広義のアートに掛かり合うキーワードが創出され、追究された。それらの対象とする事物や活動は必ずしも相同ではないが、いずれも芸術の民衆性や日常性に注目した点では類似している。
その後1930年代には、草創期の民俗学で柳田国男も芸術に関心を示し、芸術が「面白い研究課題」であり、その研究が「世界のフオクロア」に対して貢献できると強調した。そして「素人」や「専門家に非ざる百姓」「小学校に入ったばかりの子供」といった「普通人」や「無名の常民」の芸術活動―「野の芸術」―を研究することの意義を訴えた(柳田1934:147-152)。現代アート論においても先駆的である柳田のこの主張は、その後1950年代に、鶴見俊輔の「限界芸術論」に引き継がれたものの、残念なことに民俗学では忘却されてしまった。結果、日本の民俗学は伝統的な民俗芸能や口承文芸には関心をもったものの、芸術を「便宜的・表面的な分類ラベル程度のものでしかなく、内実をもった概念にまで高める必要のないもの」(小松1999:6)として軽視し続けてきた。その状況は現在でも変わらない。
しかし、アルフレッド・ジェルやティム・インゴルドなどの研究をもち出すまでもなく、近年、人類学的アート研究が活性化しており、また社会学など隣接諸科学でもアートが重要課題となっている。そして海外の民俗学に目を転じれば、英語圏ではfolk art、中国では民間芸術、そしてかつてのドイツではvolkskunstのように、アートの研究ジャンルが画定され、積極的に考究されてきた。さらに翻って日本のアート界を眺望すれば、地域の芸術祭が隆盛するなど、現代美術の重心が前衛的なコンセプチュアル・アートから、「風土」「伝統」といった土着的な民俗文化を求めるものへ移行する「民俗学的転回(Folkloric Turn)」(福住2017:29)を経験しており、アートにとって民俗学的世界は見過ごせない重要課題となってきている。
このような学術的背景のもと、現代日本の民俗学において芸術=アートという研究ジャンルを再び蘇生させ、その研究の射程に収めることが喫緊の課題となっている。本研究会では民俗学的アート研究を蘇生させるのみならず、未来に向けた多様なアート研究の対象と視座を獲得するために、「民俗学的転回」という用語の提唱者である福住廉氏をお呼びして、アート論と民俗学の対話を促していきたい。具体的には、民俗学的転回とともに、限界芸術論、アウトサイダーアート、ヴァナキュラー・アートなどを取り上げる(文責:菅豊)。
【参考文献】柳田国男1934『民間伝承論』共立社、小松和彦他編1999『芸術と娯楽の民俗』雄山閣、福住廉2017「民俗学的転回」『美術手帖』2017年12月号(1062号)。
※福住廉(ふくずみ れん):美術評論家。1975年生まれ。著書に『今日の限界芸術』、共著に『ビエンナーレの現在』、編著に『佐々木耕成展図録』など。「artscape」、「共同通信」などに寄稿する一方、東京のギャラリーマキで連続企画展「21世紀の限界芸術論」をキュレーション。現在、東京芸術大学、女子美術大学非常勤講師。
■共催:現代民俗学会、「野の芸術」論研究会(科研「「野の芸術」論―ヴァナキュラー概念を用いた民俗学的アート研究の視座の構築」グループ)、東京大学東洋文化研究所班研究「東アジアにおける「民俗学」の方法的課題」研究会
■無料。事前登録不要です。