第55回研究会 シリーズ「フィールドとしての農村・再考」Part.2
第55回研究会
シリーズ「フィールドとしての農村・再考」Part.2「農民美術から民俗学史を拡張する」
ご案内:
■現代民俗学会会員の方には、開催日前日までに、会員向けメーリングリストを通じて、参加に必要なZoomのID・パスコード等をご連絡いたします。
■本研究会は、非会員の方にも事前申し込みの上でご参加いただくことが可能です。下記の登録方法をよくお読みください。
日 時:2021年8月7日(土)13:00~16:00
会 場:オンライン開催(オンライン会議システムZoomを使用)
コーディネーター:加藤幸治(武蔵野美術大学)、菅豊(東京大学)
タイムテーブル:
13:00~13:20 問題提起:加藤幸治「拡張する農民美術運動と農村の工芸」
13:20~14:40 発表1:青江智洋(京都府立丹後郷土資料館)「近代日本における副業奨励と農民美術」
発表2:趙岩(武蔵野美術大学大学院)「中国における「民間美術」と陝北民俗剪紙の近代」
14:40~14:50 休憩
14:50~15:50 討論(加藤幸治、青江智洋、趙岩、菅豊)
趣旨:
民俗学史は、学問としての民俗学の形成過程としての「正史」と、必ずしも研究を目的としない在野の実践を育んだ「外史」の、両面を見なければ描き出すことができない。このシリーズ「フィールドとしての農村・再考」は、民俗学の「野の学問」としての性格を浮き彫りにするため、民俗学史の外縁にある多様な実践に目をむける試みである。
Part.1の第52回研究会では、農民文学と農村問題をとり上げた。Part.2である今回の研究会のテーマは、農民美術である。郷土玩具趣味や民藝運動、民謡や郷土芸能、農村青年教育などの多様な実践は、国民国家における庶民文化の多様性へのまなざしがその土台となっている。その意味において、「フィールドとしての農村・再考」は「フォークロア・再考」の端緒となりうる。
農民美術運動とは、大正から昭和初期にかけて、美術家・山本鼎が中心となって推進された運動である。彼は、冬は雪に閉ざされる長野県の農村において、若者に木彫りや刺繍などの工芸技術の訓練を行って農民らしい造形表現を生み出し、それを東京の百貨店等で販売した。農民美術は、正規の美術教育を受けていない農村青年・女子が、常に土に根ざした生活のなかで育まれる感性をもとに意匠を創出し、農民であるがゆえに生まれる表現を目指すものであった。農民美術運動は、子どもが子どもらしい自由な絵画表現を行う児童自由画運動や、戸外制作や鑑賞、教養を重視した自由画教育とセットで展開し、美術による人間復権を志した運動でもあった。
農民美術運動の広がりは、行政による副業政策と結びついて農村産業振興に取り入れられていったり、国内観光や郷土研究と結びついたりと、当初の美術運動としての性格から大きく拡張していった。そしてそれは、とりわけ地域の工芸技術の活性化や近代化と結びつくものであり、農山漁村の工芸に大きなインパクトをもたらすことがあった。そうした広がりは、まさに民俗学が学問としてのかたちを成していく時期に展開したものであった。
今回の研究会では、農民美術運動の拡張や地域的受容と、工芸技術に対するフォークロアとしてのまなざし、そしてまなざしに自覚的な農村の人々によるものづくりの実践に着目する。日本における農民美術と工芸技術をめぐる政策との関わりについての事例を青江智洋氏から、中国における「民間美術」としてのまなざしと農村工芸の展開について事例を趙岩氏からそれぞれ話題提供いただき、日中の比較の視点も入れながら議論を広げていきたい。
■共催:現代民俗学会、「野の芸術」論研究会(科研「「野の芸術」論―ヴァナキュラー概念を用いた民俗学的アート研究の視座の構築」グループ)