第66回研究会「民俗芸能とヴァナキュラー芸能のあいだ」
第66回研究会「民俗芸能とヴァナキュラー芸能のあいだ」
ご案内:
■現代民俗学会会員の方には、開催日前日までに、会員向けメーリングリストを通じて、参加に必要なZoomのID・パスコード等をご連絡いたします。
■本研究会は、非会員の方にも事前申し込みの上でご参加いただくことが可能です。下記の登録方法をよくお読みください。
日時:2023年3月11日(土)13:00~
会場:オンライン開催(オンライン会議システムZoomを使用)
コーディネーター:
菅豊(東京大学東洋文化研究所)
川田牧人(成城大学文芸学部)
松岡薫(天理大学文学部)
司会:
菅豊
基調発表者:
松岡薫
「俄はヴァナキュラー芸能なのか?―熊本県南阿蘇地方の俄から考える―」
発表者:
川田牧人
「人はいかにしてシロウト芸人になるか」
日比野啓(成蹊大学文学部)
「「新しい(民俗?)藝能」について」
資料リンク先:https://projects.khibino.net/wp-content/uploads/2023/03/35450d6b80a618a1416b233fec5e9634.pdf
■共催:東京大学東洋文化研究所班研究「東アジアにおける「民俗学」の方法的課題」研究会、野の文化論研究会(科研「ヴァナキュラー概念を用いた文化研究の視座の構築―民俗学的転回のために―」)
趣旨:
いかに人々は芸能を演じるのか。これは、民俗芸能研究において、とくに1990年代以降広く共有されてきた問いであろう。しかしながら、従来の「民俗芸能」という枠組みによる研究では固定的な身体動作の習得過程が主な研究対象とされたため、演技の工夫や個人の技、上演の場で生じるアクシデントやアドリブといった予測不可能で不確定な演技の要素について十分な検討がなされてきたとは言いがたい。したがって、人々が芸能の「型」とは異なる演技を生み出す創造的なプロセスの解明は、今後の民俗的な芸能研究の課題の一つといえるだろう。
この課題を乗り越えるため、本研究会では近年、菅豊や島村恭則らが挑戦しているヴァナキュラー文化研究の視点を取り入れたい。ヴァナキュラー文化研究では、歴史性や伝統性、継承性(日本民俗学でいえば「伝承性」)を特徴とする文化を類型的、定式的、固定的に捉えるのではなく、むしろ普通の人々が日常のなかで創造的に生み出す文化実践の、非正統で非公式、非定式な側面に着目する。つまり、ヴァナキュラーという概念を導入することによって、必ずしも継承されるとは限らない、一回的で創造的な芸能実践、つまり「ヴァナキュラー芸能」、また「民俗芸能のヴァナキュラー性」といった問題を議論の俎上にあげることができると考えられる。
そこで本研究会では、まず松岡薫が一回的で即興的な演技を特徴とする俄(にわか)という「異端」の芸能を事例に、いかに地域の人々が俄の演技を作り、演じているのかという視点から、ヴァナキュラー芸能としての俄とその創造性について論じる。
さらに、議論を深めるために、文化人類学の立場から奄美大島の余興演芸について研究をしている川田牧人氏と、演劇学の立場から日本全国の地域市民演劇について研究をしている日比野啓氏にコメントしていただく。
そして、民俗芸能研究にヴァナキュラー芸能という視点を導入することの可能性について、フロアを交えて議論していきたい。(文責:松岡薫)
基調発表要旨:
発表者は、民俗芸能における演技の創造性という問題関心のもと、熊本県阿蘇郡高森町の風鎮祭で演じられている俄(にわか)という芸能を対象に、いかにして俄の演技が作られているのかについて研究を進めてきた[松岡2021]。高森の俄の場合、その年の流行や話題を取り入れた10分程度の滑稽芝居を毎年作り、祭りのなかで上演する。稽古の場では、粗筋、登場人物、芸題、落としといった演目に関わる全てのことを、演者である青年たちが一からアイディアを出し合い、作っていく。演技の最中には観客からのヤジが飛んだり、アクシデントによって台詞がちくはぐになることもある。こうした上演の様子をみて、決められた台詞を覚えて芝居をする一般的な演劇と比べ、俄は稚拙で洗練されていない芸能だと感じる者もいるだろう。たしかに一回的で即興的な俄の演技は、正統な「型」を習得し演じることを前提としてきた従来の民俗芸能研究や演劇学では扱いづらい対象であった。
そこで今回の発表では、普通の人々による生活実践にもとづく創造力に着目するヴァナキュラー文化研究の視点を取り入れ、青年たちが身近な話題や出来事をどのようにして組み合わせながら演目を作り上げ、それを演じることで自分たちの俄を獲得しているのか、その制作プロセスを検討する。これらの検討を通じて、ヴァナキュラー芸能としての俄とその創造性について考察したい。
他方で、俄はヴァナキュラー芸能なのか、という疑問も残る。例えば、高森町の俄は少なくとも史料上では江戸時代末頃には行われていたことが確認できる。俄の演技は常に生み出され、更新されている一方で、「俄を演じる」という行為自体は反復的に続けられてきた。2019年には伝統性が高く評価され、国選択無形民俗文化財にもなっている。
このように、反復性と一回性、固定性と創造性、正統と異端という相反する性質のあいだにある俄を事例として考えてみることで、民俗芸能研究およびヴァナキュラー文化研究の進展を目論んでいる。
文献:松岡薫2021『俄を演じる人々―娯楽と即興の民俗芸能』森話社
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