第67回研究会「生活と探究の民俗学」
第67回研究会「生活と探究の民俗学:上池袋・木賃アパートから考える」
ご案内:
■現代民俗学会会員の方には、開催日前日までに、会員向けメーリングリストを通じて、参加に必要なZoomのID・パスコード等をご連絡いたします。
■本研究会は、非会員の方にも事前申し込みの上でご参加いただくことが可能です。下記の登録方法をよくお読みください。
日時:2023年3月12日(日)13:30~17:00
会場:オンライン開催(オンライン会議システムZoomを使用)
コーディネーター:
田辺裕子(演劇)
辻本侑生(民俗学)
中川亮(言語学)
タイムテーブル:
13:30~13:50 趣旨説明:田辺裕子+辻本侑生+中川亮
13:50~14:30 発表1:辻本侑生+倉田慧一(建築史)「探究の場としての「木賃アパート」の歴史的背景(仮)」
14:40~15:30 発表2:田辺裕子+中川亮「「木賃アパート」を拠点とする探究と対話の実践(仮)」
15:40~15:55 ゲストディスカッサントによるコメント:川松あかり(民俗学)
15:55~17:00 総合討議
■共催:〈ラボラトリ文鳥〉
※本研究会は、公益財団法人トヨタ財団2020年度国内助成プログラム『そだてる助成』の助成を受けたものです。
趣旨:
研究者もまたひとりの生活者である。この一見するとごく当たり前な事項から、自らの研究をはじめるためには、どのようにすればよいのだろうか。
上記のような大きく、しかし曖昧な問題意識を胸に、2020年からこれまでの約3年間、人文系の分野に携わる若手研究者たち数名から成る団体〈ラボラトリ文鳥〉[https://laboratorybuncho.wixsite.com/mysite]は、東京都豊島区上池袋にある木造アパートをシェアスペースとして運営しながら、「生活者」として「生活圏」で研究するスタイルを模索してきた。この活動の背景には、自分の専門に直接かかわらないが時間を割いて取り組むべき事柄を何かしら意識している若手研究者どうしの、分野を超えた繋がりがある。そのような場では、生活者としての関心もまた、学術的な関心と同じように共有されてきた。〈ラボラトリ文鳥〉の活動拠点では、大学のキャンパスでは語りにくい個人的なことが話題に上がることも珍しくないし、まったく予期しない生活の一場面で学術的な関心が前に開けた感覚を得ることもある。こういった出来事を待ち構え、歓迎する営みを「探究」と呼んできた。
上池袋で生活者であることと研究者であることとを往来してきた〈ラボラトリ文鳥〉にとって、キーワードとなってきたのが「木賃」である。「木賃」と聞いて、木造賃貸アパートを思い浮かべるひとはどれくらいいるだろうか。上池袋にはいまだに木造家屋が多く、2016年から上池袋で展開してきた〈かみいけ木賃文化ネットワーク〉[https://edit-local.jp/interview/kamiike/]や、その活動を下地としてきた〈ラボラトリ文鳥〉の活動では、遊休化した物件を活動的な地域住民に開くことを目指し、「木賃」をローカルな活動を活性化しうる要素として注目してきた。
一方、東京都が指定する不燃化特区のひとつであることからも明らかなように、「木賃」は火災のリスクの点から減らすべきものとされている。さらに、「木賃」におけるトイレ共用・風呂無しという生活は経済的貧しさと分かちがたいものであり、地域における「木賃」の再活用を志すことの豊かさには二重のアイロニーが常に含まれることは忘れてはいけない。
この研究会では、生活者として研究することを模索するわたしたちが「木賃」に投影してきた期待のありようを振り返りながら、(フィールドワークを行う分野に限らず)人文学が日常に接続する瞬間を探し求めたい。生活者であることと研究者であることとを誠実に両立する方法は、ひとりひとりが発明するべき、今の時代の生き方そのものであろう。異なる分野の専門性と、異なるフィールドや生活世界を持つ人々とが集い、共に検討する時間にできたら幸いである。(文責:田辺裕子・辻本侑生・中川亮)