2015年度年次大会

2015年度年次大会

日 時:2015年5月23日(土)11:30~
場 所:成城大学 3号館311教室
 

(1)個人研究発表 11:30~12:00

11:30~12:00
   廣田龍平(筑波大学)
   「タマシイはどこに留まるのか―仮設住宅における手作り仏壇からみる死者との関係性―」

(2)会員総会 12:00~12:45

・事業報告
・会計報告ほか

(3)年次大会シンポジウム 13:30~

円環する〈民俗学〉的知―学校教育と文化行政の現場から再考する―

発表者:
 伊藤純郎(筑波大学)「学校教育のなかの民俗学」
 蘇理剛志(和歌山県教育庁生涯学習局文化遺産課)「〈民俗学〉的知の活用と無形民俗文化財」コメンテーター:
 島立理子(千葉県立中央博物館)
 俵木悟(成城大学)

趣旨:

 1990年代以降、学史の徹底的な読み直しのもと、民俗学は現実社会を認識/記述する方法を獲得しようとしてきた。例えば「民俗」「伝承」「郷土」「話者」といった諸概念や独特な言い回しに対し、その政治性や本質主義的な性質が指摘されている。そのような状況に対し、民俗学内部からの批判にも晒されているが、近接学問との差異化をうまく図れない状況が続いている。しかしその一方で、民俗学は様々な立場の人々と協働し交渉していくなかで、〈民俗学〉的知を構築してきた。学校教育や文化行政における民俗学的実践はその代表的なものであろう。
 しばしば、そこでの民俗学理解に対して批判がなされてきたが、こうした民俗学側の意図とは裏腹に、「民俗」「伝承」「郷土」といった言葉はいまだ魅力的かつ審美的な言葉として存在感をもっている。2006年の教育基本法の改正により、郷土文化や伝統文化を強調した条文が盛り込まれたことは記憶に新しい。また、ユネスコの世界遺産や無形文化遺産のような国際的な枠組みは加速度的に展開している。学問としての民俗学に留まらず、諸制度のなかで読み替えられて援用されている現状を省みると、学問的見直しと平行して、現実的な課題のなかから学知を広げる作業も急務なのではないだろうか。それはまさに現代社会に生きる人々が直面してきた課題に真正面から向き合わざるをえない、現場の実践知や民俗学観を民俗学内部に取り込むことにほかならない。
 「円環する〈民俗学〉的知」というテーマには、こうした民俗学がもつ混合性(hybridity)や多声性(polyphony)を踏まえ、多極的に広がる民俗学を横断する学知構築への思いを込めた。様々な状況、立場のなかで「私は~を民俗学している(doing folklore)」という事実から、まずは考えてみたい。
 民俗学的実践は様々な分野を横断し、多極的に展開するフィールドにおいてこそ社会的意義があろう。民俗学がさまざまな場で解釈・読み替えられている現状は、「民俗学をやっている我々」が民俗学を確実に獲得してきたことを担保している。ここで、しかじかの〈民俗学〉的知の獲得過程をみることで、先鋭的・実質的そして円環的な〈民俗学〉的知の構築に挑みたい。(文責 伊藤純・松岡薫)

伊藤純郎「学校教育のなかの民俗学」

 文部科学省が4月6日に検定結果を公表した中学校教科書では、東日本大震災についての記述が初めて全教科に掲載され、「日本の伝統と文化」に関する題材が大幅に増加した。
 東日本大震災の記憶を語り継ぐための重要テーマとされた「自助」「共助」「公助」「絆」、災害伝承と防災意識、震災後の伝統芸能、伝統文化の象徴として採りあげられた「和食」などの学習において、民俗学はどのようなメッセージを発信すべきか。
 児童・生徒が学校や地域社会のなかで学ぶ生活の知恵である「〈民俗学〉的知」について、教科書の記述と関連させながら、学校教育の観点から考えてみたい。

蘇理剛志「〈民俗学〉的知の活用と無形民俗文化財」

 以前、2012年に京都で開催した第16回研究会で、紀州東照宮の祭礼「和歌祭」の奉納芸能を復興し、実演者として祭りに参画することになったことについて話題提供した。
 この企ては、文化財保護施策の仕事としては当初からの目的ではなかった。文化財調査の過程において復興の可能性を見出し、いわゆる〈民俗学〉的知を援用して実現に動いたもので、現場での関わりの中から発想し生まれた、調査のオマケのような代物であった。実験的な取り組みだったが、オマケにはオマケのクオリティや楽しみが必要となり、楽しみを取り戻すことによって祭りの見せ物の一つとして今は定着している。
 文化財的な民俗行事の復興や考証には、〈民俗学〉的知の働きが必要であるが、こうした取り組みに民俗研究者が関わることが近年増えてきていると思う。それは、地域の深刻な現実に即した課題である場合も多い。こうして既存の仕事の中から現代に有益な視点を再発見し、何かしらの見識と社会的責任をもって人々に提案することも、パブリックサイドの民俗研究者の大事な仕事ではないだろうか。

コーディネーター
 伊藤純(早稲田大学人間総合研究センター研究員)、松岡薫(筑波大学大学院/中央大学校)