2017年度年次大会
2017年度年次大会
日 時:2017年5月20日(土)11:00~
場 所:東京大学東洋文化研究所 大会議室
(1)個人研究発表 11:00~12:00
11:00~ 第一報告
邢光大(神奈川大学)
「資源化の主体は誰かー小桑村「等公王」儀礼を事例として―」
11:30~ 第二報告
林 依蓉(京都府立大学)
「台湾原住民タロマク族おける遊び仕事の意味―狩猟活動と民族の自立」
(2)会員総会 12:00~12:45
(3)シンポジウム 13:30~17:00
「民俗学」×「はたらく」-職業生活と〈民俗学〉的知-
発表者:
岩舘岳(紫波町教育委員会事務局生涯学習課主任兼社会教育主事)
樽田俊祐(株式会社浜銀総合研究所地域戦略研究部研究員)
野口憲一(日本大学文理学部非常勤講師・(株)野口農園取締役(採用・企画プロデュース担当))
コーディネーター:
辻本侑生、塚原伸治
趣旨:
民俗学は、アカデミズムの担い手のみならず、そこに属さない多様な人びとを糾合した「野の学問」として成立し、現在においてもアカデミー以外の多様な立場や職業の人びとから構成されている。多様な人びとの協働によって〈民俗学〉的知(cf.伊藤純・松岡薫「特集・円環する〈民俗学〉的知―学校教育と文化行政の現場から再考する―」『現代民俗学研究』8、2016)が作り上げられていることは、民俗学や隣接する人文・社会科学系学問の公共性や実践性を考える上で重要な論点であり、これまでの現代民俗学会のシンポジウムや研究会においてしばしば取り上げられ、議論されてきた。
他方で、戦後に高等教育機関において民俗学教育が制度化された結果、大学や大学院でアカデミック民俗学に接し、卒業・修了した後に様々な分野で活躍している職業人も、確実に増加している。しかしながら、こうした職業人たちが、アカデミック民俗学の学修・研究を通して得た〈民俗学〉的知をそれぞれ職業生活のなかでどのように活かしているかについては、ほとんど注目されてこなかった。
以上のような課題に応えるべく、本シンポジウムでは、民俗学を大学や大学院で学んだ経験を持つ3名の、学生時代の学修・研究や職業生活上の経験を踏まえた報告をもとに検討を行う。具体的には、公務員として地域における文化財保護や社会教育に携わっている紫波町教育委員会の岩舘岳氏、民間シンクタンクの研究員として国や自治体をクライアントとした受託調査や計画策定支援に携わっている浜銀総合研究所の樽田俊祐氏、農業生産法人の経営に携わりつつ、民俗学の研究・教育の担い手でもある野口農園の野口憲一氏の3名を登壇者として招き、それぞれの経験と実践をふまえた議論を行う。
これまでも現代民俗学会では、義務教育や社会教育の場における〈民俗学〉的知のあり方について、議論を行ってきた。本シンポジウムは、こうした議論の射程を職業生活の問題に拡張し、職業生活と〈民俗学〉的知の関係性について議論することを目指すものである。また、もうひとつのプラグマティックな目的として、登壇者の多様な発表と質疑応答を通し、大学等教員は民俗学教育の今後のあり方等について、学生は民俗学の学修・研究の仕方や今後のキャリアに向けた考え方等について、それぞれヒントを得ることができるような機会とすることも企図している(文責:辻本侑生)。
岩舘岳「辛苦 みながら地域で働く ―民俗学系自治体職員の場合―」
「市民参加」「協働」など、行政と住民との連携による地域課題解決が注目されて久しい。自治体行政の現場は、フィールドとの対話を学問的基盤とする民俗学との親和性が高く、学問的実践が可能な場のように見える。報告者はこうした視座から調査地の町役場に奉職し現在に至っている。大学・大学院にて蓄積した民俗学の調査経験及び知識・諸技法・習慣は、一自治体事務職員として働く現在の職業生活においてどのように作用・機能しているのか改めて考えてみたい。
樽田俊祐「門外漢からの一報告」
報告者は、自身が「民俗学を学んだ」という認識は持ち合わせていない。あくまで金魚について、自らの興味に従い、事実を知るために様々な手段を用いた結果、そこに民俗学の手法が含まれていたというのが正しい。このような人間が報告者として適切なのか疑問が残るが、余所者の立場から、大学院時代の研究から学んだことや、仕事の中で感じる「大学での学びと仕事のつながり」について報告する。皆様に「こういう見方もあるのね」と思っていただければ幸いである。
野口憲一「経済学的方法論から民俗学的方法へ――農業法人経営における民俗学の可能性」
(株)野口農園において携わっている業務(企画、商品化、営業、物流の構築、広報等)の経験から、農業法人経営における民俗学の可能性について検討する。従来の農業経営においては、効率化や合理化の徹底的な追求を主とする経済学的方法論がセオリーとされてきた。しかし、経済学的方法論は、既存の価値の範囲内における資源や財の配分を検討することはできても、価値自体の増大に寄与するものではない。本報告では、「価値の増大」と「価値の翻訳」に寄与する方法として民俗学的方法の可能性について言及する。
■主催:現代民俗学会、パブリック・ヒストリー研究会(科研「パブリック・ヒストリー構築のための歴史実践に関する基礎的研究」グループ)、東京大学東洋文化研究所班研究「東アジアにおける「民俗学」の方法的課題」研究会